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石田誠進化論Ⅱ−まことのさけうつわ−

主催者の目線2014


昨年4月に引き続き、松山在住の陶芸家・石田誠君の最新酒器の数々を日本橋にてご紹介出来る機会に恵まれて望外の悦びとなる反面で、彼(以下、「まこと」と敬称略)がこの1年間に少しでも「進化=深化」してきたのか、冷徹な眼で考えてみたい。

私は敬愛を込めて「まこと」を「まつやまをぐな」と秘かにも勝手に思っているが、「をぐな」とは健男児を意味する万葉期以来の由緒ある古語、彼には相応しいと自認している。彼の実像に接した方なら直感して頂けるだろうが、彼の「人となり」は不器用である一方、健全な精神を保持して、自然体を装いつつ日々自らを鞭打って制作に励み精進する「悩める健男児」と言ってよいかと思う。

大いに悩むがいい、大いに涙すればいい、そして大いに笑うがいい、面晤する度に彼に励ましと熱誠を込めて贈る言葉だが、「まこと」は馬鹿正直にそれを忘れずに実践している。松山に彼を訪ね、限られた時間内に腹蔵無く話すこと、話題は多方面に渉り尽きることが無い。言葉の端々に自ずと表出される誠実、義憤、悩み、疑問、夢等々が彼の手で「紡ぎ出される」作品の骨となり血となり肉となっているのは実作品を目にし手にし使い込むうちにどなたも得心することだろう。

私はギャラリストで彼の悪友でありながら、また1人の「まこと」ファンでもある。

この3月に彼が試作した「ネオ白磁」の盃を早速使ってみた。「初期白磁」に較べ轆轤が冴え渉り、その意味では進化しているのが分かる。形態も悪くはないし口当たり=お酒のキレ具合も異議がない、が、グッと惹きつける何かが不足しているようだ。何故だろうか? 「上手くなりたい、上手くなりたい!」がまことの口癖だが、上手くなる反面で失うものがありはしないか?彼の初期白磁は青みがかりボテッとしつつも重心のある健康さが身上で、私はそのぐい呑をこよなく愛している。愛用して暫くするうちに肌合いに色気が出るようになったが、何時の頃からか黒い黒子が幾つか現れて次第に「成長」してきた。念のため彼に問うと曰く「エエッ!分からん現象じゃ。磁土中か釉薬中の鉄分が抜けよったのか知らん?・・・」とのこと。釈然としない表情だった。

私はそれはそれで宜しいと思う。一見不細工でも湧いた愛着が消えず、却って益々愛おしくなる「うつわ」が終局的にはベストの「うつわ」ではないかと思う。

今回彼がコツコツ秘かに研究して世に問うアイテムがある。それが「無地スリップ」なので、皆様の反応が楽しみである。有体に言えば、これは完成品ではなく、発展途上かつ進化=深化の可能性を大いに内蔵する技法だと感じる。

目下我が家ではその「無地スリップ」小皿3種を毎日モニターとして使って按排をチェックしているが、出だしとしては悪くない。前例も無く、苦心した研鑽の跡が見えるものの嫌味は感じられず、自然体で成長してゆく素質があると感じた。

自然体、平常心、在るがままの姿で万全を尽くすこと、これ以上に難しい日常の努力は無いと思う。彼が自家薬篭中にしつつある「南蛮手」、「紅毛手」、「刷毛目手」、「スリップウェア」に加え、「ネオ白磁」と「無地スリップ」と云う新たな「引き出し=柱」が今後どんな展開をしてゆくのか誰も分からない。本人も多分明快なビジョンを持っていないだろうが、それはそれでいいと思う。

不器用でも一向に構わないとも思う、ただこれだけは意識して欲しい、「うわべだけの進化は無用だぞよ!」、「足腰と背骨とをヨリ一層鍛えろよ!」、「失敗を恐れずに楽しめ!前人未到の工夫と努力を怠るなよ!」と。

良い使い手に出会うことも大切だし、厳しい意見に耳を傾けてそれを自分の肥やしにする意識も今後より一層深めて欲しい。ただ、ハイハイと何でもかんでも受け入れなくともよい、妥協出来ない面は頑として自説と信念を曲げずにいて欲しい、何故ならその意志こそ「健全なをぐならしさ」を保たせるものなのだから。

仕事場では孤独な時間が永いと想像するが、幸い「まこと」は存外に知識欲が豊富だし、思考するひとであると私は保証する。無我と思考の積み重ねを今後も続けて欲しい。

文明と文化全般で間接ながら「まこと」の仕事と無縁のものは少ないと思う。それらの「井戸」から目には見えねど制作力を喚起するエネルギーと智慧とを汲み出す努力を日々して欲しい。

計算ずくではない、自然体での「進化=深化」はそんな自助精神の働きと、厳しくも良き理解者との出会いが不可欠なので、出来るだけ手強い「使い手」と冷徹かつ至誠の眼を持つ方々に、今回の「試作品」をぜひ見て頂きたいと念願する。

最後に「まこと」にひとこと、「100年後にも残り、愛用されるものを作れよ!」


2014年4月  
ギャラリーこちゅうきょ  
伊藤潔史 謹識  




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