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主催者の目線
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作家寄稿
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略歴

主催者の目線2015


「晩餐と云う名の勉強会」

「秋刀魚は目黒に限る!」とは古典落語の有名なサゲですが、現代ではこれが現実、すなわち毎年9月初旬に目黒区目黒川沿いの特設会場で、我がみやぎは気仙沼在の有志の全面協力の下、「目黒の秋刀魚祭り」が賑々しく執行されます。そのあまりにも好評振りに年々参加者が増えて、開催者側が嬉しい悲鳴を挙げているとのこと、ニュースで仄聞しました。気仙沼をはじめ、3.11被災地の水産業は着実に復興のピッチを上げ、遂に震災直前の70%まで水揚げが回復したとのこと、真に頼もしく嬉しい限りです。

先週の某日、仙台の実家から恒例の秋刀魚と特大帆立貝が届きまして、秋刀魚は一部三枚におろして即冷凍し、その晩から早速秋刀魚の塩焼きと帆立グリルにしましたが、いずれも上々の美味ですので実家には礼状を認め謝意を伝えました。幼少年期には余り好物でなかった秋刀魚に開眼したのは上京後、とりわけ酒の味を覚えて以降なので、故郷で水揚げされるそれは御国自慢を別にしても素直に高く評価したいものです。三枚におろした分は数日後に家内が特製グリルにしてくれまして、白ワインとともに大いに楽しむことが出来ました。

さて、先々週の金曜日午後、珍しく平日代休の私の携帯電話が鳴りまして、早速通話しますと、その相手が旧友で松山在の陶芸家・石田誠君なのでした。彼曰く、「明日から目白で個展だからして、今上京したんで電話しました。今日は会えないですよねー?」、私、「あー、毎度ながら唐突な話だけれど、或る程度予想はしてたよ!18:00、新宿駅で待ち合わせで、どんだ?」、石、「ありがと、ありがと、了解です!」

約束の刻限に新宿駅中央東口改札に着きますと、石田君は手を振って私を待っていてくれました。恒例の握手を交わしてお茶でもしようかと思いましたが、私曰く、「今晩は何処に泊まるの?そして夜は予定が有るの?」、石、「〇〇ホテルにこれからチェックインじゃけど、夜は予定なし!」、私、「んー、じゃあ何処かで食事しよう!」、石、「賛成賛成、大賛成じゃ!」新宿界隈でも良かったのですが、暫し熟考の末に我が隠れ家、本駒込「オステリア・ラ・ベリータ」様が好かろうと電話しますと、急な注文にも酒井稔仁シェフは快諾して曰く、「どーぞ、お出で下さい、奥様とお二人でしょ!」、私、「まあ、2人分席を取っていて下さい、〇〇時までに参ります。」

現場までの途々、石田君とは馬鹿話をはじめ種々意見交換やら近況報告やらをしましたが、「ラ・ベリータ」様で着席して、初めてマダム=御母堂と酒井シェフに石田君をご紹介しました。シェフ曰く、「時間が許す限り、ゆっくり楽しんでいってください。幸い今晩は気の置けない常連様のみのご来店予定なので、リラックス出来ますよ!」との有難いお言葉。例の如く、食前酒=伊太利亜麦酒を片手に黒板メニューと睨めくらしますと、石曰く、「kiyoさん、もの凄い怖い眼つきでなんだか真剣勝負みたいじゃけ!」、私、「当たり前じゃ、これからシェフとの真剣勝負が始まるのじゃ!」シェフは当然苦笑しつつ、メニューとワインをアレンジして下さり、厨房へと「真剣勝負」に出陣しました。

アンチパスト3種と、気になって仕様の無かった「白豆のショートパスタ」、ドルチェ、食後酒のリモンチェッロ、〆のエスプレッソに至る全品は正に「真剣勝負」=心尽くしの御手本ですし、更には取って置きの赤ワインを各1杯試飲させて頂き、私の悦びは一入、かつ石田君も相当満足して呉れたようです。前回約束してお取り置き頂いた「ソーヴィニョン・ブラン」も予想以上の素晴らしさ、シェフのワイン鑑識眼と選択眼の高さが偲ばれる上々のものでした。

石田君のテーブルマナーの良さと、食材及び伊料理の蘊蓄が中々深いのを初めて知り、正直驚きました。アンチパストの1品が「秋刀魚マリネのサラダ」で旬の味を最高の腕前で供されましたが、石曰く、「このサラダのトマトは極上じゃ!kiyoさん、分かるけ?」と唸るのをシェフが聞きつけ、「えーっ、分かりますか!?これは中々入荷困難で、最高のものなんですよ!」と驚いています。石また曰く、「この麺麭も美味しい美味しい!」実際当店の麺麭はシェフが大いに工夫を凝らした逸品なので、常連様の心を捉えて離さないこと私も同様、シェフの面目が大いに施された感がありました。

食事の最中に石田君との間で自ずと話題になったこと、それが実際の「食」の現場で「うつわ」が如何にあるべきか?と云うことでした。「ラ・ベリータ」様の場合、一品をシェアする基本スタイルですので、やや大振りの「うつわ」に盛られて6寸大のお皿に取り分けます。この寸法の間合いが実に良く、毎回お邪魔する度に秘かに感心する点のひとつです。石田君に問い質して私曰く、「マコ!この寸法の間合いと呼吸、現実に料理が如何に盛り付けられるか、使い勝手はどうなのかを、いい機会だからして、身体で覚えて研究して、自分なりの回答案を作ってみたらよかろう!」と発破を掛けますと、彼は腕を組み、黙想しつつ答えて曰く、「そうじゃそうじゃ!僕ら作り手は現場で何が求められているのか?そんでその作品=うつわが如何に使われているのか?分からんで悩むんじゃけ、今日は頭じゃなくて、身体全体の感覚と感性を以て勉強するのじゃ!」と強い口調で言い切りました。彼なりの「真剣勝負」の数時間だったことと確信しました。

この晩餐の翌日に、目白の某ギャラリーでの個展初日に、陣中見舞いで顔を出しました。ラインナップをザッと見渡し、気になる作品を手に取り吟味して、彼の最新の試作技法=オリジナル鉄釉による大皿と中皿を各2点求めました。石田君、「どうだろか?kiyoさんには内緒で研究してみたんじゃけ・・・」、私、「んー、また良い引き出し=基本技法を掴みつつあるね。眼に見えないディテールもマアマアかも知れないよ。足腰も悪くないね。今晩から早速いじめて、すなわちドシドシ使ってみるよ!」、石、「ありがとありがと、ぜひ大いにいじめてやって下さい・・・それからね、夕べのね、食事会ね、僕には大変貴重な勉強会になったと痛感したんじゃけ、本当にありがと!」別れ際にいつも以上に力を込めて握手を交わしたこと、言うまでもありません。

「うつわ」の在り方、陶芸作家の仕事の在り方は、今後益々真剣に考えねばならぬとつくづく痛感いたします。一見してこれはいいな!と購入しても、実際に現場で使ってみて失望する事例を、私自身頻繁に体験しています。石田誠君には現状に満足せず、孜孜とした研鑽と努力を継続して欲しいと願ってやみません。そして将来、酒井シェフをはじめ料理のプロフェッショナルたちが唸り、その現場で愛用する器を制作提供して欲しいものと、石田君に心から熱いエールを送ります。石田君、もっともっと頑張って下さい!(by kiyo=伊藤潔史)

※以上の拙文は昨年9月、「箔屋町だより」に綴ったものを加筆校正せず、100%転写したもの。12月に今回の展覧会準備のために松山へ行き、親しく、かつドラスティックに石田君に接しました。昨年より確実に彼が「進化=深化」している様子は、言葉の端々、そして彼の表情と言動とに表れていると見ました。今回のラインナップも、1点1点丹精を込め、作者の力量を万全に表出したものと言えましょう。ぜひ、お手に取って、忌憚ないご意見をお聞かせいただきますよう、お願いをいたします。(伊藤 再拝)


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